ドンツキの原因

 ドンツキがなぜ起きるのかを整理してみました。

ドンツキの主な原因

  • フュエルカット後の燃料カット復帰補正
     スロットルの開け始めで急にパワーが出てしまう原因です。
  • 整備不良
    • チェーンのたるみ
      たるみが解消されるまでの時間が長いと、その間にエンジンの出力が上がって、大きな駆動力が一気にタイヤに伝わるので、ドンと加速する
    • ハブダンパーの劣化(タイヤが、がたつきます)
    • 吸気系の過度な汚れ(空燃比の乱れ要因です)
  • 乗り手の操作
    • アクセルガバッと一気に開けたら・・・・
    • ついて来ない気がしてどんどん開け続けたら・・・

フュエルカット後の補正でドンツキ

 ドンツキの主因は、フュエルカット後の燃料カット復帰補正です。フュエルカットを起こさいようにするFCE::Fuel Cut Elminatorを取り付けるとドンツキが無くなります(FCEの取り付けをお勧めしているわけではありません)。

フュエルカットとは

 クラッチをつないだままアクセルを全閉してエンブレで減速している状態(Over-Run状態)では、燃料を供給が止まります(Overrun FUEL CUT)これがフュエルカットです。アクセル切れば、全閉でもOver-Run状態にはならないので、燃料はアイドリングに必要な燃料が供給されます。

フュエルカット中に吸気系がドライに

 Over-Run状態になり燃料がカットされていても、エンジンは回転していて、バルブも作動しているので、、空気だけを吸い込んで排出する工程は行われています。

 そのため、吸気ポートなどの内壁面に付着していた燃料が気化してゆき内壁面がドライになります。

ドライな吸気系で燃料供給が変化

 通常、内壁面付着燃料は液化吸入燃料となり、遅れてシリンダー内に吸入されます。シリンダーに吸入される総吸入燃料量は、

(総吸入燃料量)= (噴射量)-(壁面付着燃料量)+(液化吸入燃料量)

です。

 エンブレ後に再加速する時は、内壁面がドライになので、液化吸入燃料がゼロで、内壁面に付着しやすいので、壁面付着燃料量は多めになります。

 付着する量には限度があるので、一定量付着するとそれ以上付着しなくなり、安定します。霧化した燃料がインテークマニホールドや吸気ポート等の内壁面に再度付着して、通常状態の付着量に戻るまでには、数回の燃料噴射が必要なようです。

付着燃料の液膜厚さ 1100回転している4サイクルエンジンだと、7回の点火には、0.7秒かかります。 内壁面がウエットになるまでの0.7秒間に、通常どおりの燃料供給しか行わない場合、噴射量に見合った総吸入量が確保できずに、エンジン内に入る混合気が薄くなってしまい、パワーが出ず加速が悪くなってしまいます。

燃料カット復帰補正

 レスポンス良くパワーを出すために、フュエルカット後の再加速時は、燃料噴射量を多めにします(燃料カット復帰補正)。通常は、エアフローメーターで等の各種センサーの値に応じて燃料噴射量を決めます。

「燃料カット復帰補正」によりドンツキ

この「燃料カット復帰補正」が大きすぎて、空燃比がオーバーリッチになると、パワーが出すぎてドンツキが起きます。

ドンツキ無しの補正ができない理由

 ECU:Engine Control Units (ECU)は、つねに適正な空燃比を精度よく得るために、制御を行なうさいの予測演算を行います(予測をしない廉価なECUもある)。

 「燃料カット復帰補正」を行う際も、吸気ポート内に付着・残留し、次の爆発サイクルで燃焼室に流入する[付着燃料量]を付着比率をシミュレ一ト計算で予想して、燃料制御しますが、付着比率は運転状態など様々な要因により変わってくるため、加減速時などの正確な空燃比制御ができなくなることがあります。このため、加減速時などの空燃比制御に乱れを生じ、ドンツキになります。

 予測をせず、マップにしたがって固定的な補正だけしている場合は、空燃比の乱れはさらに大きくなります。

ドンツキ撲滅の可能性

 ECMの予測計算の精度が向上すれば、ドンツキは克服できる可能性があります。ECUに接続された、クランク角センサー、吸気管圧センサー、スロットルセンサー、O2センサー、吸気温センサー、エンジン温センサー、転倒センサーなどのセンサーにより、ECMは最適な噴射量を予測しています。たとえば、エンジン温度の応じた蒸発定数と壁面付着率と、1噴射前の壁面付着量とに基づいて必要な補正量を計算しているECUもあります。

 しかし、予測精度を向上のためには、これらのセンサーからの情報だけでは不十分です。たとえば、エンジン温度センサがある場所の温度と、吸気ポートの表面温度には差があるので、予測に誤差生じます。

 将来ECMに接続されるセンサー類がより豊富になり、吸気ポートの汚れ具合、吸気ポートの表面温度、吸気の湿度、標高、ガソリンの質などのあらゆるデータが取得可能になれば、それらのデータを元に正確なシュミレーション予測をして補正してドンツキを無しの補正をできる日が来るかもしれません。

キャブレターでのドンツキ

 燃料カット復帰補正は、キャブレターではできませんが、スロー系から供給されれる混合気が濃すぎるとドンツキが起きます。

 低速からの加速時にオーバーリッチな混合気が供給されてドンツキが発生するのはキャブレターと同じです。

スロー系

 低速時用の燃料供給系が、スロー系です。

 スロットルが閉じると、「Idle Port」や「Transfer Port」の気圧が下がります。

Transfer Port 「Transfer Port」は、スロットルバルブを閉じた時にスロットルボディとのバタフライの隙間で気流の流速が増加して生ずる負圧(ベンチュリ効果)で、燃料を吸い出しています。「Idle Port」や「Transfer Port」の気圧が下がると、これらにつながっている「Slow Jet」から燃料が吸い出されます。

 アイドル時の空燃比は、2つ上の図では、Idle mixture screw と書かれているねじで調整します。

下図の左はアイドリング状態です。スロットルが閉じていてメインジェットからの燃料噴射が止まっていますが、スロージェットがからの燃料噴射が生じています。

 下図の右側のようにスロットルが空いてくるのにしたがって、バルブの左側の気圧低下が解消し、スロー系からの供給が細くなります。一方、ベンチュリーを、空気が流れるようになり、流速の早いベンチュリーにあるメインからの燃料供給が支配的になります。

Carburetor
キャブレターの燃料噴射 スロットルが閉じている時と、開いている時

スロットルの開け始めにスロー系から濃すぎる混合気が供給されると、ドンツキになります。

減速時の空燃比補正

 吸気ポートの気圧が低い時は、スロー系から供給される燃料を濃くする機構もありますので、アイドル時のスロー系から供給される混合気の空燃比を調整しただけではドンツキが解消しない場合もあります。

下図の⑧がスルー系の空燃比を制御するバルブです。

スロットルが閉じると、エンジン側の気圧が下がり、図の「P」から空気が吸い出されて、⑧のダイヤフラムが動いて、バルブが閉じます。

バルブが閉じると図のB系統から吸気が遮断されて、A系統からの空気だけになり、スロー系の空燃比がリッチになります。

Slow Enrich-valve

Fuel cutする理由

エンブレ中に燃料をしても無駄なので、燃費向上のために燃料供給を止めます。

 エンジンオーバーラン/オーバー レブ(エンジン回転数が許容回転数以上)になると、バルブタッチが発生してエンジンが破壊されてしまうので、エンジン保護のため燃料カットをします。点火カット、スロットルコントロールなどの方法もあります。

 車速が最高速を超えた時の高車速燃料カットもあります。バンク・アングル・センサーで転倒を検知した場合の燃料カットもあります。FCEで強制的にフュエルカットを起こさないようにしてしまうのは、怖い気がします。

キャブレターで燃料カットする理由

 クラッチつないだままでアクセル全閉にした場合は、吸気ポートの気圧が大きく低下し、キャブレターのスロー系より燃料が大量に吸い出されてしまい、エンジン内が非常に燃調が濃くなります。

 濃すぎると、プラグが燃料で湿ってしまったり、一部の燃料がシリンダーの壁に付着して、油膜を洗い流したり、オイルに燃料が混じって希釈されてしまったりします。

そのため、燃費を気にしない場合であっても、燃料カットが必要になります。

キャブレターのフュエルカット機構

 キャブレターでもフューエルカットができるキャブレターがあります。
ソレノイドバルブで燃料をカットする方法と、ダイアフラムで供給をカットする方法があります。

電動式

 ソレノイドを使って燃料をカットします。下図の場合、スロットルのエンジン側とフロートチェンバーをつないで燃料供給をカットします。Fuel-cut-off-solenoid

 エンジン側の気圧が下がると、フロートチェンバーの気圧も下がり、スロー系からの燃料供給も止まります。

 エンジンの回転数が下がりアイドリングに近づいたら、ソレノイドで空気の通路を塞ぎます。これにより、フロートチェンバーの気圧が回復して、スロー系からの供給が開始されます。スロットを閉じているので、メインジェットからの供給は止まっています。

機械式

 フローティングチェンバーの気圧を、吸気ポートの気圧に連動させて下げることにより、燃料の吸出しを停ます。電気式と同じ原理です。違いは、ソレノイドの代わりに、ダイヤフラムを使うことです。

 吸気ポートの気圧に応じて開閉するダイヤフラムで、フローティングチェンバーの気圧低下を制御します。吸気ポートの気圧が大きく下がれば、フローティングチェンバーと吸気ポートをつなぐ空気の経路を開いて、燃料カットします。回転数が下がったり、スロットルが開いたりして、吸気ポート側の気圧がある程度回復すると、空気の経路を閉じて、フローティングチェンバーの気圧を回復させ、燃料供給をします。

 下図の(9)AIR CUT OFF VAVLE COVERのところが空気の経路を開閉するダイヤフラムです。Carburetor-Assembly

燃料カットの例外

 通常のシフトチェンジの際にアクセル閉じてもFuel Cutしてしまわないないように、アクセル閉じてから0.5秒ほどの間は、FUEL CUTしないように制御したりもします。

 何回転以上でカットするか、何%カットするか、全閉でなければ供給を止めない、などの減速時のFuel Cut 量は、ECUの設定次第です。

 機械式で燃料カットしているキャブレターも、クラッチを切れば、アクセル全閉にしていても、インマニの気圧おさまり、少量の燃料がアイドリング用に供給され続けます。

フュエルカットでのドンツキ軽減策

点火をタイミングをずらす

 Over-run状態の時のイグニッション点火角度を数度ほど遅らせるECUもあります。そうすることにより、トルクが減って、レスポンスは悪くなりますが、供給停止・再開時の挙動がスムースになります。

 アクセルをどのくらい開けると燃料供給を再開するは、ECUの設定しだいです。

Fuel Cutをしない

 FCEを取り付けるとフュエルカットが無くなります(お勧めしているのではありません)。

 レーサーは、公道を走る一般車のようなフュエルカットを、しないこともあります。

 ガソリンの気化熱によるエンジンの冷却目的で、Over-Run状態でも燃料を供給をするようにしていたり、OVER-RUN FLAMEをエキゾーストから派手に出す演出のために点火だけ切って、フュエルカットをしない人もいるみたいです。

無効噴射時間はドンツキの原因ではない

 ECUからの燃料供給信号がONになってからインジェクタが開弁するまでに作動遅れ(無効噴射時間)があります。

Injector_Dead-time_lag-time
インジェクタ駆動パルス励起後の燃料噴射量の推移と、
駆動パルスとインジェクタ開閉のタイムラグ/ 無効噴射時間(DT)

 パルス励起後の燃料噴射量の推移この遅れ(無効噴射時間)で、空燃比の乱れが生じます。無効噴射時間は以下の要因でも変動します。

  • オルタネーターの発電電圧、バッテリー電圧の変化により、インジェクタが開弁する印可電圧が低くなると、無効噴射時間が長くなります。
  • インジェクターのコイルの熱による変化(温度が上がると電気抵抗が大きくなり、無効噴射時間が長くなります。
  • インジェクターのコイルの発熱などにより、インジェクタ―の温度が上がると電気抵抗が大きくなり、無効噴射時間が長くなります。

これら変動は、良いECUなら自動補正してくれます。

 無効噴射時間の変動は、減速時に限らず常時起きています。
(インジェクタからの燃料供給量の調整は、ECMからの燃料供給指示信号の長さ(パルス幅)で調整しているので、ECMから燃料供給指示信号は、アクセルを開けている時でもON、OFFを繰り返しています。)
したがって、アクセルオフから再度あける時のドン突きの原因ではなさそうです。

余談

電子制御スロットルシステム

 電子制御スロットルシステムは、ライダーのアクセルグリップ操作をセンサーで検出し、DCモーターでスロットルバルブを駆動します。アクセル操作とスロットルバルブの開度を1:1に対応させずに、エンジンの回転数とトルクが比例するように、回転数に応じてスロットル開度をECMが制限して、全体的なトルク特性を作っています。

 アクセルグリップを操作した時に感じる重さも、センサー部の軸受けにオイルシールを設けて創りだしたフリクションであり、スロットルバルブからのフィードではありません。電子制御スロットルだと、右手の平のにスロットルバルブの動きを感じながら、職人技のようなスロットワークをすることが困難かもしれません。

 メインスロットルバルブを制御は、ライダー操作と分離され、アクセル操作どおりに開閉していません。

 スロットルグリップと直結したメインスロットルバルブの他にECU制御によるモータ駆動のサブスロットバルブを持っている二輪用スロットルボディもあります。

ECUが行う燃料供給補正の例

 ECUは日々進化していて、さまざまな補正を行っています。

  • 始動後増量補正
  • 暖気増量補正
  • 吸気温補正
  • 過渡時期空燃比補正   (加速増量、減速減量)
  • 出力増量(OTP増量)補正
  • アイドル安定化補正
  • 空燃比フィードバック補正
  • 電圧補正
  • フューエルカット
    • エンジン回転数が最高制限回転に達した場合に燃料をカット
    • 減速時にアクセル全閉するとカット(ドン突きの原因)

WET Manifold と Dry Manifold

 インテークマニュフォールドを積極的に加熱して、燃料を揮発させるドライシステムもあります。ディーゼルなどは、インテークマニフォールドにエクゾーストマニフォールドを隣接して排熱でインテークマニュフォールドを温めたり、ヒーターで温めたりします。

 クーラントなどでインテークマニュフォールドを積極的に冷却して空気温をさげ、より高密度な空気をシリンダーに送り込むために、四輪のガソリンエンジンもあります。